『箱を残しながら、街をアップデートしていくことが大切なんです。』

箱崎商店街

商店街

福岡県福岡市

変わりゆく街と歴史ある空間。
大切なのは新しいものと古いものを接続すること。

 福岡県福岡市の観光名所「筥崎宮(はこざきぐう)」。かつての蒙古襲来、元寇の際に”神風”が吹き未曾有の苦境に打ち勝ったことから、厄除・勝運の神が祀られる社として有名だ。 
 その一帯にあるのが「箱崎商店街」。近年まで賑わいを作っていたのは学生たちだったが、2018年に大学が移転した。しかし、どうしたことか全く寂れた様子がない。その理由の一端が「ムメイジュク」。街を活性化する発信基地だ。その仕掛け人、株式会社SAITOの斉藤社長にお話しを伺った。
ー 斉藤さまは人生のほとんどの時間を箱崎で過ごされ、今は建築事務所を構えられています。商店街で思い返されることはありますか?
 保育園に通っていたころはまだまだ農地も多かったですね。そうそう、小学校の頃は弟と一緒にこの商店街で「博多にわか」を習っていました。漫才とかコントみたいなものなのですが、ただし最後はダジャレで落とす。みたいなやつです。商店街のすぐ近くに糸岐ぼんち先生という著名な方がいらっしゃって、毎週教えてもらってたんですよ。
 この建物の二軒隣りに100年続いているこんにゃく屋さんがあるんですけど、今も「にわか」をやっていらっしゃいますよ。
— 今も脈々と続いているんですね。
 「変化という意味では、小学校4年生の時に箱崎駅が高架になったんです。その時に校区が引き直されて。線路から箱崎商店街側は箱崎小学校区、線路の向こうは筥松(はこまつ)小学校区という具合になりました。自分は筥松小学校に通っていたんで、両親が「転校しないほうがいいだろう」って、筥松側に引っ越しました。
街としてもしっかり区切られて、一体感が失われたような印象を受けたのを覚えています。
— 高架ができると便利になって、交流しやすくなると思ったんですが、必ずしもそうではないんですね。
 そうですね。また以前は九州大学があって、学生街的な雰囲気も強かった。ただ徐々に移転するような状況になって、そこに区画整理が重なって。さらに街も高層化してきました。
ー 街が変化していくことに抵抗はありましたか?
 いえ、変化自体は良いことだと考えています。学生がいなくなったからといって、廃れていくわけではありませんから。一方で小さなお店が無くなって、マンションがたくさん建って。という流れはちょっと寂しいなって思っています。
 箱崎駅前の大通りも、高架になる前は雑多な感じでした。人間味みたいなのが薄れてきているかなと。昭和の箱崎っぽさも素敵なので。
ー ところで株式会社SAITOは「ハコと場をつくる」というコンセプトを掲げられていますが、「ムメイジュク」の具体的なミッションを教えていただけますか?
 建築事務所は筥松側ですが、「ムメイジュク」は商店街内に創りました。交差点の角で「見通し」も「風通し」も良い空間として。先ほど言ったように街中は変わっていっていて、新しい街も今後できていく。そんな中で商店街の人と人がコミュニケーションができる場所として運営しています。
ー 歴史や歴史が残る空間も大事にされたいとお考えかと思いますが、そこを守る人、新しく集う人はどうあるべきだと思いますか?
 正直そこのグッドバランスというのは難しい。ただ箱崎商店自体は、お宮が1000年前からあっていろんな人が訪れましたし、大陸との交易の窓口でもあった。新しいことに寛容なんです。
 自分が大事だと思うのは、「新しいものと古いものの接続」です。時間の連続っていうのは、空間が残っていないと認識できない。つまり、空間でしか時間の経過を証明できないんですよ。
ー 古い箱も残しながら、街としてはアップデートしていく。ということでしょうか。実際に箱崎商店街では独自のデジタル施策を行ったり、積極的なブランディングを実施されたりしています。そのアイデアはどこから生まれるのでしょうか?
 ここムメイジュクで毎週火曜日の19時に、有志で集まって会合を開いています。まぁ会合というか。ほとんど飲み会ですね。昨日はそこの網でメザシを焼いていました笑
 話題は商店街の加盟店のこととか、新しい人がいたら誘ってみようよとか、来月のマルシェはどうしようかとか。それこそ、今回のOMNICITY®を使った実証実験のことなんかも。
 毎週固定メンバーに加えて。来たい人が好きにやってくる。映画監督がきて、魚屋さんのプロモーション動画をつくろうって話も実現しました。あ、ちなみに商店街の魚屋さんのお刺身、一回食べたら他で満足できなくなるくらいです。ここだけのハナシ。
ー えー!ぜひこの後お伺いしたい。
 残念ですが今日は定休日ですね。火曜日にムメイジュクがあって、翌日はお休み。魚屋さんの朝は早いですから。火曜19時、というのはどうしても飲みたい魚屋さん用シフトなんです笑
ー 下町の良さっていうのはどのあたりにあるのでしょうか。
  まずは気軽、気さくな人たちが多い事でしょうね。それからお宮ではたくさんのお祭りがあります。今年の九月の放生会はすごかったですよ。新型コロナの影響で3年ぶりの開催だったんですけど、ものすごい人出でした。参道一杯に広がって、動けないくらい。
ー あのとてつもなく、長く、広い参道が。
 他にも2年に一回神様の引っ越しをするんです。子と親とおじいさん、という具合に世代を超えて参加して文化を継承していっている。横のつながりも強くなる。
 ただ今、人口は増えているんですが、神事への参加者はひまひとつ増えていないんです。
ー 引っ越したばかりって、従来の地域コミュニティの存在をそもそも知らないですし、入り方も分かりませんよね。だから籠ってしまう。
 そうなんです。だから知ってもらうためのコミュニケーションを生むにはどうしたらいいか、それもみんなで考えています。今やりたいと思っているのは、不動屋さんでお渡しする箱崎商店街ガイドブックです。
ー いいですね!
  コミュニケーションを生む。ということに関連して、斉藤さまのお仕事で、ワークスペースと、そこで作ったものを売る場所をあえて分けた。というもの拝見しました。あえて人流を作るというところに何か意味を見出されたのでしょうか。
 大事なのは日常的に顔が見える関係性です。建物の中に囲い込んでしまって、人が見えなくなってしまうケースって多いんですが、やっぱり街って人通りがすごく大事で、自然と歩いていて楽しい街になる。それは囲いを取っ払う、境界線を無くすということです。
 

ー 今回の実証実験では、OMNICITY®をムメイジュクと商店街の4店舗に導入されましたが、囲いを取っ払う、境界線を無くすためにどのような活用をイメージされましたでしょうか。

 商店街を見ていて、なんとなく人が動いているのは分かるんです。しかし、きちんと数字としてカウントして「分かる」ことが大事です。そこから、あの店からこの店へ、という傾向が分析できると、新たな施策も考えやすいですね。
 例えば結果をムメイジュクで、みんなと見ながら議論して、もっとコミュニケーションを生むアイデアにつなげられると良いと考えています。良かったらその模様、実況中継しましょうか?笑
ー なんなら参加したいです!ちなみにOMNICITY®はアプリを介して、通行人の方に情報配信もできますが、新しい住民の方に、日常使いできる名店情報をお届けすれば喜ばれると思いました。
 面白いですね。箱崎商店街には分かりやすいアーケードはありませんが、100店舗近いお店が加盟しています。つまり、このあたり一帯が商店街なんです。
 現在はSNSツールで繋がっているのですが、見ている人と見ていない人の差が激しくなってきていて、情報が届きにくい。もっと小さな、例えば2、3店舗くらいでいろんな試みをして、成功したら全体に広める。そんな施策を考えていきたい。
 今回のOMNICITY®の実証実験も5店舗からですので、ちょうどいいと思います。
ー 箱崎商店街、独自の電子マネーなど、新しいことに取り組まれていて、本当に面白いと思いました。各地の商店街で参考になるんじゃないかと思うほどです。

  最後に興味で聞いてしまうのですが、今日早朝に商店街を散歩していたら、朝5時から開店しているうどん屋さんを見つけて……「脂足りてますか」って書いてあって……

  あー、”箱太郎”さん!
 若い方なんですが中華屋さんに間借りして、朝の5時から、材料がなくなる間だけ営業されているんですよ。うどん屋さんというより、動画サイト用のネタにうどんを作っているような方で笑
 うまいですよ。一見、脂でギトギトなんだけど、全然しつこくない。今凄い話題で、県外からもお客さんがきているんです。もう今の時間は閉まっているでしょうね笑

 大学の移転という苦境を箱崎商店街が乗り越えられたのは、コミュニティとしての協力があり、古きを重んじ、かつ進化を受け入れてきたからなのだ。そしてその原動力が斎藤さまであり、ムメイジュクなのだ。
 固く閉じた殻に、コツコツと優しく外からヒビを入れてくれる。そのような存在はこれからもきっと、商店街を面白くしていくに違いありません。
ー インタビュー日:2022.11.2
  • ・箱崎商店連合会
     〒812-0053 福岡県福岡市東区箱崎3丁目8-18
     TEL:070-4221-5850
     https://hakoshoren.org/
  • ・株式会社SAITO
     〒812-0063 福岡市東区原田1丁目1-13 5F
     TEL.092-611-6745
     https://www.sa-o.com/
     

さあ、一緒に 始めましょう!